ゴールを決めた後の様子がおかしい…?リスペクトのスポーツ、サッカーのちょっと素敵なお話。
90分間魂の削りあいの末生まれるゴールはわずか1点!?
昨シーズンのJリーグにおける1試合の平均ゴール数は1.26でした。90分間の激しい戦いの中、歓喜の瞬間が訪れるのは毎試合平均わずか1回あまりという結果は、サッカーにおける1ゴールがもたらす意味がいかに大きいかを示しています。
にもかかわらず、喜ぶどころかどこか寂しげな選手のパフォーマンスを見たことはないでしょうか。「ノーセレブレーション」とよばれるこのパフォーマンスは、相手チームや観客に対するリスペクトを示すため、喜びを抑え振る舞うことを指します。リスペクトを重んじるサッカーで生まれた、めちゃくちゃカッコいいシーンの一つです。
いくつかの「ノーセレブレーション」
◆モハメド・サラー
Embed from Getty Images2018年4月24日に行われたUEFAチャンピオンズリーグ準決勝第2戦で、リバプールFCはASローマと対戦しました。この試合では、モハメド・サラーがローマ戦前の古巣であるローマ相手に2得点を挙げました。
しかし、サラーは得点した際に喜びのセレブレーションを行わず、敬意を示すような控えめな態度を見せました。この行動は、彼がローマを愛し、リバプールへの移籍前に在籍した古巣に対して深いリスペクトと感謝の念を持っていたことを示すものでした。
サッカーファンやメディアはこのモハメド・サラーの行動に注目し、彼のスポーツマンシップと謙虚さを称賛しました。サッカー界では、選手が古巣に対して感情を抱くことは珍しくありませんが、そのような感情を公に示す姿勢は素晴らしいと評価されました。
◆クリスティアーノ・ロナウド
Embed from Getty Images2016年のUEFAチャンピオンズリーググループステージで、レアル・マドリードはスポルティング・リスボンと対戦しました。この試合で、ロナウドはフリーキックを決め、チームの2-1の勝利に貢献しました。しかし得点を挙げた後、彼は喜びのセレブレーションを抑え、静かな態度で感謝のポーズを取りました。
このような行動は、スポルティング・リスボンがロナウドのキャリアの出発点であり、彼がプロ選手として最初に輝いたクラブであることへの敬意を表すものでした。ロナウドはプロのキャリアのスタート地点であるスポルティングに感謝の気持ちを持っており、その試合でのゴールに対しても謙虚な姿勢を示したのです。
このようなノーセレブレーションは、ロナウドのプロフェッショナリズムとスポーツマンシップに対する敬意を示す重要な瞬間となっています。彼のプレーと行動はサッカーファンにとって感動的であり、世界中の多くの人々に尊敬されています。
◆ケヴィン・デ・ブライネ
Embed from Getty ImagesUEFA EURO 2020のグループステージで、デンマーク代表とベルギー代表が対戦した試合で、デ・ブライネがゴールを決めた後、セレブレーションを行わずに控えめな態度を見せました。これはその5日前の試合中に起きた、デンマーク代表クリスティアン・エリクセンの心臓発作に対し敬意を示す行為とされています。デ・ブライネはエリクセンとプレーした過去があり、彼の状態にショックを受けた全世界のサッカーファンと選手たちと共感を示したとされています。
このような敬意を示す行為は、サッカー界の選手たちが心の絆を持ち、共感し合う姿勢を示す素晴らしい例の一つです。クリスティアン・エリクセンの緊急事態の瞬間は世界中に衝撃を与え、選手たちが彼へのサポートを示す姿勢は感動を呼び起こしました。(その後エリクセンは体調を回復し、わずか半年で実践復帰・翌年は代表へも復帰しました。)
語り継がれる約50年前のノーセレブレーション。
Embed from Getty Imagesサッカー史に語り継がれる有名なノーセレブレーションのひとつは、1974年にまで遡ります。
その年スコットランドの英雄デニス・ローは、10年間プレーし彼の最盛期を過ごしたマンチェスター・ユナイテッドを離れ、ライバルチームのマンチェスター・シティでプレーをしていました。新天地で着々とゴールを重ねるキング・デニス(ローの愛称)に対し、古巣ユナイテッドは絶不調のシーズンを送っていました。
そしていよいよユナイテッドの降格が目前となるシーズン最終盤に行われたマンチェスターダービー。0-0の硬直状態で進むゲームの終了間際81分。仲間の折り返しに反応したローのバックヒールが決まり、これが決勝点となります。ゴールを決めた後の彼の姿は何とも言えない複雑なものでした。しっかり決めきるストライカーの本能と、古巣への想いが溢れ出てしまうこのパフォーマンスに、たくさんのサッカーファンが胸を撃たれました。
長く慣れ親しんだ古巣の降格を決定づけるものとなってしまったこのゴールは、奇しくもローにとってもキャリア最後のゴールとなりました。またユナイテッドにおいても、長いクラブの歴史の中で1部リーグから降格したのはこの一度だけであり、さまざまな想いの重なるたった一つのゴールとなりました。
※実際は他会場の結果によりこのゴールの有無に限らず、降格は決定していました。
後にローはこの試合を振り返り、「あのゲームほど落ち込んだ試合はなかった」と語りました。
サッカーにおいて最高にエキサイティングな瞬間”ゴール”の裏側に、かつて自分を育てくれたクラブへの感謝や、ともに戦うサッカーファミリーへのリスペクトを常に抱いている選手の存在は、忘れてはいけないサッカーの素晴らしさです。
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